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高松地方裁判所 昭和63年(ワ)400号 判決 1991年1月29日

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

石本美幸

右訴訟代理人弁護士

堀井茂

被告

入谷光政

小川智恵子

右両名訴訟代理人弁護士

三原一敬

川東祥次

主文

一  被告入谷光政は、高松市<住所略>佐伯第二ビル三階所在「パブクラビクラ」において、別添カラオケ楽曲リスト及び同追補に各記載の音楽著作物を、次の方法により演奏してはならない。

1  カラオケ装置を操作して、伴奏音楽に合わせて顧客又は従業員に歌唱させること。

2  カラオケ装置を操作して、カラオケ用のビデオディスク(レーザーディスク)に録音されている伴奏音楽の演奏を再生(上映)すること。

二  被告入谷光政は、右店舗に設置したカラオケ装置の機器全部を同店内から撤去せよ。

三  被告入谷光政は、高松市<住所略>杉山ビル四階所在「ラウンジまはらじゃ」において、別添楽曲リスト、同Ⅱ、同Ⅲ、同Ⅳ、同Ⅴ、同Ⅵ記載の音楽著作物を営業のために演奏してはならない。

四  被告入谷光政は、右店舗において、別添カラオケ楽曲リスト及び同追補に各記載の音楽著作物を、カラオケ装置を操作して、伴奏音楽に合わせて顧客若しくは従業員に歌唱させ又は自ら歌唱する方法により、演奏してはならない。

五  被告入谷光政は、右店舗に設置されたピアノ及びカラオケ装置の機器全部を同店舗内から撤去せよ。

六  被告入谷光政は、原告に対し、金八七七万二四〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

七  被告両名は、原告に対し、連帯して金二八八万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

八  原告の被告入谷光政に対するその余の請求を棄却する。

九  訴訟費用はこれを一〇分し、その八を被告入谷光政の、その一を被告小川智恵子の、その余を原告の負担とする。

一〇  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  主文一ないし五項、七項同旨

2  被告入谷光政は、原告に対し、金九一五万一六〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づく許可を受けたわが国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽の著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめレコード、映画、出版、興行、社交場及び有線放送等各種の分野における音楽の著作物の利用を許諾し、音楽の著作物の適法な利用を円滑簡易ならしめるとともに、右許諾の対価として音楽の著作物の利用者から著作物使用料規程に定める使用料を徴収し、これを内外の著作権者に分配することを目的とする社団法人である。原告は、別添楽曲リスト、同Ⅱ、同Ⅲ、同Ⅳ、同Ⅴ、同Ⅵ、同Ⅶ記載の音楽の著作物並びに別添カラオケ楽曲リスト及び同追補記載の音楽の著作物(以下「管理音楽著作物」という。)のうち、内国の音楽の著作物については著作権者との著作権信託契約約款により、各著作権者から著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けてこれを管理し、また、外国の音楽の著作物については、わが国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約により、演奏、放送及び上映を含む公開演奏を許諾する独占的権利の付与を受けて管理している(<証拠>)。

二被告らは、次のとおり、高松市内において、音楽著作物を利用して飲食店を営む者である。

1  パブクラビクラにおける著作権侵害行為

(一) ピアノ生演奏

被告入谷は、昭和五五年一一月二七日から、高松市<住所略>佐伯第二ビル三階においてパブクラビクラという店名のスナックの営業を開始したが、右店内で営業時間中ピアノを使用し、原告の許諾を受けずに原告の管理音楽著作物を反復継続的に生演奏させ、これを来集した不特定多数の客に聞かせていた(争いがない)。

(二) ビデオディスクカラオケ

被告入谷は、昭和六一年一月以降、従来のピアノによる生演奏に代え、右店舗に営業設備としてカラオケ装置を設置し、これを稼働させるため原告の管理音楽著作物である伴奏音楽を収録した多数のビデオディスクを常備し、原告の許諾を受けずに、毎日営業時間中従業員(ホステス)をして顧客に飲食を提供するかたわら、顧客にすすめて、常備してあるビデオディスクの中から好みの曲目を選ばせて、従業員にカラオケ装置を操作させてビデオディスクにより録画した映画を上映するとともに画面に歌詞を表示した上、伴奏音楽の演奏を再生し、その伴奏の旋律に合わせて顧客に他の客の面前で原告の管理音楽著作物である当該歌詞付き楽曲を歌唱させ、また、しばしばホステス等にも顧客とともにあるいは単独で歌唱させ、これを来集した不特定多数の顧客に聞かせ、今日も右行為を継続している(争いがない)。

2  みに倶楽部倉美倉(旧店名メンバーズクラブクラビクラ)における著作権侵害行為(ピアノ生演奏)

被告入谷は、昭和五八年四月二七日から、高松市<住所略>パリスビル一階において、メンバーズクラブクラビクラという店名でクラブの営業を開始し、その後店名を、みに倶楽部倉美倉と改称して営業を継続していたが、営業開始当初から、日曜日、祝祭日を除いた毎日、営業時間中ピアノを使用し、原告の許諾を受けずに原告の管理音楽著作物を反復継続的に生演奏させ、これを来集した不特定多数の客に聞かせていた(争いがない)。

3  DJコンパまはらじゃにおける著作権侵害行為(レコード演奏)

被告入谷は、昭和六二年一二月四日から、高松市<住所略>Fビル一階において、DJコンパまはらじゃの名称で、来集した顧客に対し、飲食物を提供するとともにフロアーにおいてダンスをさせる店舗の営業を開始したが、その当初から、右店舗内にレコードを再生するオーディオ装置を設置し、毎日営業時間中、原告の許諾を受けずに右オーディオ装置を使用して、レコードを再生して原告の管理音楽著作物を反復継続的に演奏し、これを来集した不特定多数の顧客に聞かせ、ダンスをさせていた(争いがない)。

4  ラウンジまはらじゃにおける著作権侵害行為

(一) ピアノ生演奏

被告両名は、共同して、昭和六〇年一〇月一六日、高松市<住所略>杉山ビル四階において、ラウンジまはらじゃの名称でクラブの営業を開始したが、その当初から、右店舗において、日曜日、祝祭日を除いた毎日、営業時間中ピアノを使用し、原告の許諾を受けずに原告の管理音楽著作物を反復継続的に生演奏させ、これを来集した不特定多数の客に聞かせていた。その後被告小川は共同経営者の地位を退き、右行為を中止したが、被告入谷は今日も右行為を継続している(争いがない)。

(二) オーディオカラオケ

被告両名は、右店舗において、カラオケ装置を設置し、これを稼働させるため原告の管理音楽著作物である伴奏音楽を収録したカラオケテープを常備し、毎日曜日、原告の許諾を受けずに、ピアノによる生演奏に代えて、営業時間中従業員(ホステス)をして顧客に飲食を提供するかたわら、顧客にすすめて、常備してあるカラオケテープの中から好みの曲目を選ばせて、伴奏音楽の演奏を再生し、その伴奏の旋律に合わせて顧客に他の客の面前で原告の管理音楽著作物である音楽を歌唱させ、また、しばしばホステス等にも顧客とともにあるいは単独で歌唱させ、また、自らも歌唱し、これを来集した不特定多数の顧客に聞かせていた。その後被告小川は共同経営者の地位を退き、右行為を中止したが、被告入谷は今日も右行為を継続している(争いがない)。

三本件訴訟は、原告が、被告らの行為が著作権の内容である演奏権、上映権の侵害であるとして、被告入谷に対し、著作権侵害行為の差止め(著作権法一一二条一項)並びにもっぱら右侵害行為に供された機械又は器具であるピアノ及びカラオケ装置の撤去(同条二項)を求めるとともに、右侵害行為(ラウンジまはらじゃを除く)による音楽著作物使用料相当の損害金合計金九一五万一六〇〇円(別表(4)ないし(9)のとおり)及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年一〇月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告両名に対し、両名の共同経営に係るラウンジまはらじゃにおける侵害行為による損害金二八八万六〇〇〇円(別表(10)及び(11)のとおり)及びこれに対する不法行為の後である昭和六三年一〇月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

四争点

1  オーディオカラオケが著作権の侵害となるか。

2  損害額、特にその算定の前提となる侵害期間及び使用曲数

第三争点に対する判断

一争点1について

被告らは、オーディオカラオケによる顧客の歌唱は、公衆に直接聞かせることを目的とした演奏でなく、店側は、その演奏の主体でもなく、また営利の目的もないから著作権法二二条、六三条に基づく著作者又は著作権者の権利を侵害するものではない旨主張する。

しかしながら、争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、被告らの店舗におけるオーディオカラオケの利用については、カラオケ装置と音楽著作物たる楽曲の録音されたカラオケテープとを備え置き、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による伴奏により、他の客の面前で歌唱させるなどし、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益をあげることを意図しているものと認めることができるのであり、このような場合は、著作権者の承諾を得ない限り、客による歌唱についても、経営者がその主体として演奏権を侵害しているというべきである。

したがって、この点に関する被告らの主張は理由がない。

そして、前記争いのない被告らの音楽著作物利用状況からすると、被告らは、原告の管理する音楽著作権を侵害したものであり、被告らの店舗に設置されたオーディオカラオケ装置はもっぱら右侵害行為に供された機械又は器具であると認めることができる(ピアノ生演奏、ビデオディスクカラオケ、レコード演奏についても同様である。)。

二そこで、次に争点2(損害)について判断する。

原告の管理音楽著作物の使用料については、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律三条一項に基づいて、原告が主務大臣の認可を受けて著作物使用料規程を定め、これに従って徴収しているが、その内容は次のとおりである(<証拠>)。

1  旧規程時代の生演奏(カラオケ伴奏による歌唱を除く)

昭和四六年四月一日に認可された著作物使用料規程(以下「旧規程」という。)によると、生演奏のうち、軽音楽一曲一回の「演奏会形式による演奏」の使用料は、定員、平均入場料、使用時間によって類型区分された料金表により別表(1)のとおり定められており、これをカフェー、クラブ、スナック等の社交場において使用する場合は、右演奏会形式による演奏についての使用料の一〇〇分の五〇の範囲内で使用状況等を参酌して具体的な使用料を決定することとされている。そこで、原告は、①定員について五〇〇名未満を一〇〇名単位で段階的に区分し、客席数に応じて使用料を逓減し、②平均入場料について、入場料金を明示しない場合は一セット料金(飲食税、サービス料を含む)又は同相当額に三〇パーセントを乗じた金額に、テーブルチャージ、席料等がある場合は更にその額を加算した額を平均入場料として、使用料を算定している。

2  旧規程時代のカラオケ伴奏による歌唱

カラオケ伴奏による歌唱については、別表(1)を適用するに当たり、右①、②を参酌するほか、③特別使用許諾契約(著作物使用料規程取扱細則(社交場)七条)の場合と同率の五割の減額措置を講じ、④素人である客が歌唱することにより職業歌手ほどの効果は上がらないという理由で更にその二割を減じて、使用料を算出することとしている。

3  新規程時代の生演奏(カラオケ伴奏による歌唱を除く)

昭和六一年八月一三日に変更許可され、昭和六二年四月一日から施行された著作物使用料規程(以下「新規程」という。)によると、社交場における生演奏一曲一回使用時間五分までの使用料は、座席数及び標準単位料金の区分により別表(2)のとおり定められている。

4  新規程時代のカラオケ伴奏による歌唱

カラオケ伴奏による歌唱については、別表(2)を適用するに当たり、前記2同様、五割の減額措置を講じた上、更にその二割を減じる。

5  新規程時代のレコード演奏

新規程によると、社交場におけるレコード演奏一曲一回使用時間五分までの使用料は、座席数及び標準単位料金の区分により別表(3)のとおり定められている。

三そこで、各店舗別に個々の損害額を検討する。

1  パブクラビクラ

(一) ピアノ生演奏

原告は、昭和五五年一一月二七日から同五六年六月までの間及び昭和五九年一月から同六〇年一二月までの間、ピアノ生演奏が行われたと主張する。これに対し、被告入谷は、生演奏をしたのは昭和五五年一一月二七日から一、二か月間、週一、二回程度の割合で行ったに過ぎない旨主張する。

しかしながら、証拠(<省略>)によれば、被告入谷は、本店舗でピアノ演奏をしていることをテレビコマーシャルで放映し、営業開始後約一か月の間、少なくとも週三回程度、知人に一日一時間ないし二時間生演奏をさせただけでなく、その後、マネージャーである浅野文之をして生演奏をさせたり、特別なイヴェントの際にはプロのピアノ奏者に生演奏させたりし、更に、みに倶楽部倉美倉の営業開始後は同店のピアノ奏者に掛持ちで生演奏させるなどし、現に、原告の調査員が昭和六〇年四月二六日、五月八日、七月二日に調査に訪れた際に、いずれも生演奏を行っていた事実を認めることができる。

そして、原告の調査員が調査に訪れた際には、演奏時間は僅か二〇分程度でありながら、一〇曲前後の曲が演奏されていた事実を認めることができる(<証拠>)。

してみると、仮にパブクラビクラにおける生演奏が原告主張の期間中継続的になされたものでなく、また、一日当たりの平均演奏時間もごく短いものであったとしても、前記期間を平均すれば、原告が損害算定の基礎として主張する一日一〇曲程度の生演奏はされていたものと優に推認することができる。

そして、前掲各証拠によれば、右店舗の定員、客席数による参酌係数、平均入場料、営業日数については、別表(4)のとおり認めることができるから、前記二1の損害算定方法で計算すると、損害額についても別表(4)のとおり認めることができる。

(二) ビデオディスクカラオケ

前掲各証拠によれば、定員、客席数による参酌係数、平均入場料、営業日数、座席数、標準単位料金については別表(5)及び(6)のとおり認めることができる。使用曲数については、原告は一日三〇曲を主張するのに対し、被告入谷は、それを下回る旨主張するが、原告の調査員が昭和六三年七月二六日に調査に訪れた際には四〇曲使用されていたこと(<証拠>)、他の同種店舗を原告が調査しても三〇曲から四〇曲程度使用されていること(<証拠>)、本店舗には一日平均二〇名程度の客が入店していたこと(<証拠>)などからすると、一日三〇曲程度の曲は使用されていたものと推認することができ、原告の損害算定の前提は相当なものと認められる。以上によれば、侵害行為のあった期間のうち、旧規程時代については、前記二2の損害算定方法で計算すると、損害は別表(5)のとおり、新規程時代については、同二4の方法で計算すると、損害は別表(6)のとおり認めることができる。

2  みに倶楽部倉美倉におけるピアノ生演奏

証拠(<省略>)によれば、原告主張の期間において、一日平均三〇曲の生演奏が行われていたことが推認されるほか、原告主張のその余の損害算定の前提は合理的なものと認められ、右侵害行為のあった期間のうち、旧規程時代については、前記二1の方法で計算すると、損害は別表(7)のとおり、新規程時代については、前記二3の方法で計算すると、損害は別表(8)のとおり認めることができる。

3  DJコンパまはらじゃにおけるレコード演奏

原告は、右店舗における一日の使用曲数を一二〇曲として損害を算出する。

そして、昭和六三年七月二七日に原告の調査員が調査に訪れた際には、午後六時から午前四時の営業時間の間に一二二曲が演奏された事実が認められる(<証拠>)。しかしながら、調査はこの一回しか行われていないこと、右調査は、若者が夜遅くまで多く来店すると思われる夏休み期間中に行われていること、他の同種店舗における使用曲数等の資料もないこと、また、本店舗においては有線放送も併用されていたかどうか、あるいは使用の程度、割合等の調査はされていないこと等からすると、原告調査時の一二二曲という数字をそのまま損害算定の基礎として採用することは困難である。しかし、一方、本店舗は、いわゆるディスクジョッキーの語りを売り物にして、ディスクジョッキーが喋りながらレコードをかける方法で演奏され、客にダンスをさせるのを中心としていたことからすると、ある程度の人数の客が入場している限り、有線放送ではなく、レコード演奏をしていたものと認められ(<証拠>)、原告の調査時において、午前二時ころまでに一〇〇曲ほどの曲が演奏されていたことなどからすると、少なくとも、平均して一日一〇〇曲程度のレコード演奏がなされていたものと認め、これを基礎として損害を算定するのが相当である。そして、座席数、標準単位料金、営業日数については、別表(9)のとおり認めることができる(<証拠>)。これをもとに、侵害行為は新規程時代であるので、前記二5の方法で計算すると、別表(12)のとおり、損害は一八九万六〇〇〇円となる。

4  ラウンジまはらじやにおけるピアノ生演奏

証拠(<省略>)によると、原告主張の期間、一日平均三〇曲を生演奏をしていたことが認められ、また原告主張のその余の損害算定の前提は合理的なものと認められ、右侵害行為のあった期間のうち、旧規程時代については、前記二1の方法で計算すると、損害は別表(10)のとおり、新規程時代については、前記二3の方法で計算すると、損害は別表(11)のとおり認めることができる。

四以上のとおりであるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官滝口功 裁判官石井忠雄 裁判官青木亮)

別紙<省略>

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